
大インフレ:忍び寄る70年代の影
日経新聞の記事「忍び寄る70年代『大インフレ』の悪夢」を読んで、改めて米国経済の行方に緊張感を覚えました。70年代のアメリカは、政治が中央銀行に圧力をかけ、インフレを制御できず、最終的にボルカー議長が強烈な金融引き締め政策をとり、金利のコントロールをやめた。その為、短期金利は24%まで上がってしまいました。
当時の累積財政赤字はGDP比31.5%。今の100%超の状況と比べると、当時の方がまだ余裕がありました。それでも制御不能なインフレに苦しんだのです。現在のアメリカはその「悪夢」に似た道を歩んでいるように見えます。
マネサバくん:おじさん、70年代のアメリカってそんなに大変だったの?
私:ああ、大変どころじゃなかった。物価が上がり続けるから、人々は「どうせ将来も値段は上がる」と思って買い急ぐ。それがまたインフレを加速させる悪循環になったんだ。
マネサバくん:なるほど…。インフレって心理戦でもあるんだね。
ニクソン大統領
記事によると、1971年には当時のニクソン大統領がFRB議長バーンズに緩和を迫った記録が残っています。結果的に彼は「最悪のFRB議長」と呼ばれるようになりました。
今も同じ構図が見え隠れします。議会はトランプ大統領に沈黙し、司法も独立性を完全には守り切れる保証がない。市場だけが唯一の歯止めとなっています。実際、トランプ氏がパウエル議長解任を示唆したとき、株・債券・ドルが同時に下落し、彼自身が発言を引っ込めざるを得ませんでした。
マネサバくん:え、つまり市場が大統領を止めてるってこと?
私:そう。政治も司法も頼りにならない時、最後に残るのは「市場の声」。投資家の売買が唯一の抑止力になるんだ。
マネサバくん:それってすごいけど、逆に言えば不安定だよね…。
FRBとドルの信認
この記事で強調されているのは「FRBとドルの信認」の重要性です。ボルカー元議長も「ドルを支えるのは制度ではなく、人々の信頼だ」と語っていました。つまり、FRBが独立して正しくインフレ対策を行うという信頼が揺らげば、ドルの基軸通貨としての地位も危うくなるということです。
そして、その信認を揺るがすのが政治による露骨な介入。トランプ氏が再び強い圧力をかける構図は、70年代と驚くほど酷似しています。違うのは、当時より財政の悪化が深刻であること。インフレが定着した場合、制御するために必要な犠牲は70年代以上になるかもしれません。
マネサバくん:おじさん、じゃあ今の4.5%の金利なんて全然低い方なんだね。
私:そうだよ。当時の短期金利は24%。今の金利なんて「低金利」に見えてしまうほどだ。当時ですら痛みを伴ったのに、今は財政も悪化している。つまり、もし再びボルカー級の引き締めが必要になったら、その衝撃はもっと大きくなるだろうね。
マネサバくん:ひえぇ…投資家としては怖いけど、逆に大きなチャンスもありそうだね。
インフレについて
投資家目線で考えると、インフレが定着するかどうかは最大の関心事です。もし「インフレが当たり前」という認識が広がれば、株式や不動産など実物資産への資金流入が加速します。逆に、FRBが信頼を取り戻すために大幅利上げを行えば、株式市場は暴落し、その後に大きな買い場が訪れるかもしれません。
70年代の経験は「インフレを放置すれば、最後はもっと痛い引き締めを強いられる」という教訓を示しています。そして今、その歴史が再び繰り返されようとしているのかもしれません。
私たち投資家にとって必要なのは、短期的なニュースに振り回されることではなく、「信認」という目に見えない基盤が揺らいでいないかを常に意識することです。FRBとドルの信認が揺らげば、世界の市場は一気に荒れます。だからこそ、このテーマは株やFX、金投資に直結する重要なサインとなるのです。
【出典】
・タイトル:忍び寄る70年代「大インフレ」の悪夢 FRBとドルの信認危うく
・URL:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN020C30S5A900C2000000/
・媒体名:日経新聞
・掲載日:2025年9月4日