
日本の30年国債利回りが過去最高を更新 財政懸念と政局の影響
日本の30年国債利回りが過去最高水準を更新しました。1999年に30年債が発行されて以来、もっとも高い水準となったのは、単なる市場の動きではありません。その背景には、日本の政局と財政運営への不安、さらには日銀の金融政策の限界が重なっていると思われます。
ブルームバーグの記事では「日本では政局による財政悪化懸念が強く、米独の利回りが足元でやや低下する中で上昇が目立つ」と指摘されています。米国やドイツの長期金利が落ち着きを見せる中で、日本だけが突出して売られているのです。この現象は、まさに「日本版トラスショック」とも言える可能性をはらんでいます。
マネサバくん:おじさん、トラスショックってイギリスの話だよね?なんで日本で同じことが起きる可能性があるの?
私:そうだね。イギリスでは2022年、リズ・トラス首相の減税政策が「財源はどうするのか」と批判されて国債が急落したんだ。日本でも、もし政局の混乱から「財政規律が緩む」と市場が判断すれば、同じように国債が売られて金利が急騰するリスクがある。
マネサバくん:市場はやっぱり政治に敏感なんだね。
政局と財政悪化懸念
今回の金利上昇の背景には、自民党総裁選の前倒し観測があります。参議院選挙で与党が過半数を割り込んだことで、石破首相の退陣が取り沙汰され、次の政権は財政拡張的な政策に傾くと見られているのです。
「財政規律」が揺らげば、市場は真っ先に国債を売ります。国債発行の増額懸念は、長期・超長期の国債利回りを押し上げます。財政再建の信頼性が失われれば、いくら日銀が金融政策で金利を抑え込もうとしても限界があります。
日本の債務残高はすでにGDP比で260%を超えています。財政余力が乏しい中で追加の国債発行が意識されれば、市場の反応は一層厳しいものになるでしょう。
日銀の利上げ観測
金利上昇には、日銀の金融政策も影響しています。米財務長官の「日銀は後手に回っている」という発言をきっかけに、利上げ観測が高まりました。金利スワップ市場では、10月までに利上げを実施する確率が5割超、年内には7割近い確率で織り込まれています。
これまで日銀は「粘り強く金融緩和を続ける」としてきました。しかしインフレ率が高止まりし、円安が進む中で、世界的に利上げ局面が続くと、日銀だけが動かないことへの批判が強まります。利上げに踏み切らざるを得ない状況が見えてきており、それが長期金利を押し上げているのです。
マネサバくん:おじさん、金利が上がるってことは、国債を持ってる人が損するってこと?
私:そう。国債の価格と利回りは逆の関係にあるから、利回りが上がると価格は下がる。特に30年のような超長期債は価格変動が大きいから、ちょっとした政策の変化でも損益に大きな影響が出るんだ。
マネサバくん:なるほど…。長期投資だから安全、ってわけじゃないんだね。
世界の長期金利との比較
今回の動きは日本だけの問題ではありません。世界的に政府支出の拡大や、トランプ関税の影響によるインフレ警戒から、超長期金利は上昇基調にあります。
米国では30年債利回りが7月に再び5%台に達しました。ドイツでも今月、2011年以来の高水準を付けています。つまり「長期の借金コストが高まっている」のは世界共通の現象です。
しかし、日本の場合は財政不安と政局の混乱が加わることで、米独の利回りがやや低下しても、日本の利回りは逆に上昇するという特殊な動きを示しています。この乖離は「日本リスク」として市場に認識されつつあります。
投資家にとっての意味
投資家にとって、今回の利回り上昇は二つのメッセージを持っています。
ひとつは、国債を「安全資産」とみなすことのリスクが表面化したこと。財政に疑念が出れば、どんな国の国債も売られる可能性があるのです。
もうひとつは、株式や不動産といったリスク資産との相対的な魅力が変化すること。長期金利が上昇すると、将来のキャッシュフローの割引率が上がるため、株式の理論価値は下がります。つまり「金利上昇=株安要因」となり得るのです。
マネサバくん:おじさん、もしこれが“日本版トラスショック”なら、投資家はどう動けばいいの?
私:基本は慌てないことだね。ショックが起きると市場は一時的に過剰反応するけど、その後は冷静に価値を見直す動きが出てくる。だから、むしろチャンスになる場面もあるんだ。
ただ、今の日本で市場の混乱が発生した時は、一時的な混乱では無く、根本的な変化になる可能性も有るので注意が必要だとも感じているよ。
マネサバくん:つまり、歪みを投資チャンスとして見られるか、だけでなくリスク管理が大事なんだね。
まとめ
30年国債利回りの過去最高更新は、日本の財政と政局に対する市場の厳しい評価を映し出しています。世界の金利上昇基調に加えて、日本特有のリスクが意識される状況は、単なる一時的な動きにとどまらないかもしれません。
投資家にとって重要なのは、こうした「国の信用力の揺らぎ」が金融市場にどう波及するのかを注視することです。財政の持続可能性が疑われるとき、真っ先に試されるのは国債市場です。そして国債市場の不安定化は、株式市場や為替市場にも波及していきます。
イギリスのトラスショックが示したように、財政運営への信頼を失えば先進国でも簡単に国債は売られます。日本がその轍を踏むのか、それとも信頼をつなぎ止められるのか。まさに正念場を迎えているといえるでしょう。
【出典】
・タイトル:30年債利回りが過去最高更新、財政悪化懸念で売り-3.21%に上昇
・URL:https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-08-22/T1D973GOT0JR00
・媒体名:ブルームバーグ
・掲載日:2025年8月22日