
FRB利下げ再開から学ぶ「金融政策と投資の教科書」
2025年9月17日、アメリカのFRB(連邦準備理事会)は9か月ぶりに利下げを再開しました。0.25%の引き下げです。市場参加者にとっては想定内の結果でしたが、今回のFOMCにはいくつか「不思議」とも言える点があります。
今日はその内容を整理しつつ、「投資家」としてのヒントを探ってみたいと思います。
今回のFOMCのポイント
まずは基本をおさらいです。
- 政策金利:4.0〜4.25%に引き下げ
- 利下げ回数見通し:年内あと2回(前回見通しの2回から3回に増加)
- 経済成長率見通し:1.6%(前回より上方修正)
- 物価上昇率:3.0%(前回と同じ)
- 失業率見通し:4.5%(前回と同じ)
ここで奇妙なのは、失業率が上昇したから利下げしたのに、予想数値は前回と変えていない点です。本来なら「利下げにより失業率が下がる」と予想するのが筋のはずなのに、据え置いたまま。
また、インフレ率が2%の目標を上回る中で、利下げを加速させている点も大きな矛盾です。
マネサバくん:おじさん、インフレが3%で高止まりしてるのに利下げって変じゃない?
私:普通に考えたら変だね。景気刺激のための利下げが、逆にインフレを悪化させる可能性もある。70年代のアメリカがまさにそうだったんだよ。
マネサバくん:ニクソン大統領の時代?
私:そうそう。当時は政治がFRBに圧力をかけて、結果的に強烈なインフレを招いたんだ。どこかで聞いた様な話だね。
政治の影響力と中央銀行の独立性
今回のFOMCでは、トランプ大統領が指名したばかりのミラン理事が「0.5%の大幅利下げ」を主張し、反対票を投じました。FRBの独立性が揺らいでいるのでは、という懸念が出ています。
歴史を振り返ると、政治による金融政策への介入はしばしば経済を混乱させてきました。特にインフレ期においては「緩和を強要する政治」と「引き締めたい中央銀行」のせめぎ合いが続きます。
今回のパウエル議長の会見でも「独立性に強くコミットしている」と繰り返したのは、その懸念を意識しているからでしょう。
インフレの正体を再確認
インフレは「物の値段が上がること」と言われますが、正確には「貨幣の価値が下がること」です。
通貨の量が過剰に増えれば、相対的にお金の価値は下がり、同じモノを買うのにより多くの通貨が必要になります。
アメリカの累積赤字はGDP比で見てもかつてない規模に達しています。貨幣供給量も70年代の比ではありません。この状況で利下げを続ければ、インフレ圧力はさらに高まる可能性があります。
マネサバくん:おじさん、インフレって結局「お金が増えすぎること」なんだね。
私:その通り。だから投資家は「どこに逃げれば価値が守られるか」を考える必要がある。金や株式、不動産など、実物資産にお金が流れるのはそのためなんだよ。
マネサバくん:じゃあ今回の利下げは、むしろ資産インフレを加速させるかも?
私:その可能性は高いね。現に株価は、ほぼ史上最高値だしね。
投資家としてどう動くべきか
ここから投資教育的に学べることは3つあります。
- 金融政策は矛盾を抱える
「雇用を守るための利下げ」と「インフレ抑制のための引き締め」は同時に成立しにくい。FRBは常にバランスを取ろうとしますが、政策に矛盾が生じることも多い。 - 政治と経済は切り離せない
トランプ政権の圧力は、金融市場を動かす大きな要因です。投資家は「中央銀行の独立性がどれだけ守られるか」に敏感であるべきです。 - インフレ時代の資産防衛
現金の価値が下がるとき、長期的には株式や不動産、あるいはコモディティが有効な防衛策になります。特に米国株はインフレに強いと言われます。
日本との比較:もっと厳しい現実
日本もまた深刻です。
CPIは3%を超えているのに、金利は0.5%。アメリカ以上に「お金の価値が目減りする状況」が進んでいます。にもかかわらず、利上げをできない構造的な問題(国債市場や財政赤字)がある。
つまり「強烈なインフレリスク」はアメリカ以上に日本に潜んでいるのです。
マネサバくん:おじさん、日本の方が深刻ってちょっと怖いね…。
私:そうなんだ。でも逆に言えば、若いうちから投資を始めるチャンスとも言える。現金だけでは守れない時代だからこそ、分散投資で資産を作ることが大事なんだよ。
マネサバくん:なるほど、勉強になるなぁ。
まとめ:利下げは「救いの一手」ではない
今回の0.25%利下げは、確かに短期的には景気を支える効果があります。株式市場も歓迎するでしょう。
しかし、それは「時間を稼ぐための一手」に過ぎません。インフレや財政赤字といった根本的な問題を解決できるわけではないのです。
投資家にできることは、こうした金融政策の動きを冷静に観察し、長期的に資産を守る行動を取ること。ニュースをただ「見て終わる」のではなく、「自分の投資戦略にどう生かすか」を考える習慣を持つことです。
【出典】
・タイトル:FRBが9カ月ぶり利下げ再開 0.25%、新理事が「大幅」求め反対
・URL:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN16BMA0W5A910C2000000/
・媒体名:日経新聞
・掲載日:2025年9月18日