
金投資:金は「儲ける」より「守る」
20〜30代が今、少しだけ持つ理由
マネサバくん:おじさん、最近ニュースで金(ゴールド)が上がってるって聞いたよ。今から金投資を始めるのはもう遅い?
私:遅い・早いの前に、“何のために持つか”が先だよ。金は「攻め」じゃなくて「守り」のピース。ここを間違えると、だいたい失敗する。
今日はウオールストリートジャーナルの記事から見てみよう。
金投資は「保険」。だから量より役割
株や債券が基本メンバーだとしたら、金は「非常口」。普段は目立たないけれど、火事や地震のときに効く。
歴史的に金は、インフレ加速、政府債務の膨張、戦争や政治不安、ドル不信といった“悪いことセット”で相対的に強くなる傾向がある。一方で、配当も利子も生まないから、長期リターンは株+債券の王道コンボには及ばない。だから「全力金買い」は筋が悪い。少しだけ——これがポイント。
米系ヘッジファンドの分析では、相場急落やインフレショックの“クラッシュ・シナリオ”を考えるなら、金の組み入れ0.5〜9%程度が妥当という示唆がある(幅が広いのは投資家のリスク許容度次第だから)。私の経験則でも、最初は2〜5%から始めて、生活防衛資金や収入の安定度、他資産との相関を見ながら微調整が使いやすい。
マネサバくん:保険なら、たくさん入っておけば安心じゃないの?
私:保険に家賃並みの保険料は払わないよね?“過剰な安心”は、長期リターンを削る。必要十分でいい。
なぜ今、金の「出番」が増えるのか
- インフレの質が変わった
グローバル化が止まり、関税・保護主義・リショアリングでコスト上昇圧力がジワっと続く構図。短期の景気循環ではなく、構造的な“粘る物価”は、株と債券が同時に弱る局面を作りやすい。 - 中央銀行の独立性リスク
金利を巡り政治の影響が強まると、物価抑制より債務維持(いわゆる財政支配)が優先される恐れ。市場が最も嫌う“不確実性の増幅”が起これば、分散先としての金に資金が逃げやすい。 - ドル覇権の摩耗
制裁等で外貨準備の“使えなさ”が露わになると、各国中銀の金買いが増える。準備資産としての金は、誰の負債でもない“ノンカウンターパーティ資産”だからだ。 - TIPSの限界に備える視点
物価連動債はCPIに紐づくが、測り方の変更リスクはゼロではない。金は指数連動ではなく、より“現実の通貨不信”に反応しやすい。
20〜30代が押さえる実務:どう持つ?いくら持つ?
金投資を考える際に、以下の様な投資方法が有ります。
1) 器を選ぶ(国内個人の現実解)
- 現物(金地金・コイン):カウンターパーティーリスクが低い。保管・手数料・買値売値のスプレッドがコスト。盗難・相続も要設計。
- ETF:売買容易・少額から可。信託報酬あり。為替(円/ドル)をどう扱うかで銘柄選定が変わる。
- 積立(現物/投信):時間分散で高値掴みを薄めるのに向く。
- 鉱山株・金採掘ETF:金価格にレバレッジが効きやすい反面、企業・原油・国別リスクも乗る。金の“保険”用途とは別枠で。
2) 目安アロケーション(最初は小さく)
- 守り8:攻め2くらいの人:金2〜5%から。ボラ低めの全体設計に馴染む。
- 攻め6:守り4くらいの人:金1〜3%でも機能しやすい。代わりに現金比率と債券デュレーションを意識。
- 仮想通貨も持つ人:相関の変化に注意。“リスクオフ時の同時下落”が増えたなら、金の比率を微増・暗号資産を微減で調整。
3) ルール運用(“買いっぱなし”にしない)
- 年1回の再調整:例えば金3%目標で、4.5%まで膨らんだら少し売って3%に戻す(利食いルール)。2%に減ったら買い足して戻す(ナンピンではなく“規律”)。
- コスト最小化:売買は四半期/半期に集約。積立は毎月定額でOK。
- 為替の扱い:円建て金は円安で“上がって見える”ことがある。米国株多め×円建て金だと、為替リスクが偏ることも。全体でバランスを見る。
マネサバくん:ぼく、まずは毎月1万円の積立からでいい?
私:いいね。最初は“生活防衛資金>積立金”が鉄則。非常口の前に、消火器(生活費6〜12か月分)を置こう。
よくある誤解を先回りで解く
以下は金投資で良くある誤解です。気を付けてください。
- 「金は上がり続ける」
上がり続けない。停滞も下落もある。だから“保険”として持つ量に留める。 - 「株が下がれば必ず上がる」
金のヘッジ効果は“なぜ金利が動くか”次第。景気回復で金利上昇なら株↑・債券↓・金↓もあり得る。インフレ主導の金利上昇なら株↓・債券↓・金↑になりやすい。 - 「配当がないから無駄」
リターンではなく“相関の異質さ”に価値がある。保険料だと割り切る。
ミニ設計図:3アセットで始める「シンプル防御」
- 株(世界株インデックス)65%
- 債券(ヘッジ有の中期債 or 短期債)30%
- 金(ETF or 積立)5%
運用ルール:年1回再調整/暴落時(株が−20%超)に、金投資が目標の+1.5%以上なら一部を株へ振り替え。これで“暴落資金”を自動で捻出できる。欲張らないけど、効く。
マネサバくん:じゃあ、今すぐ全部金にして「最強防御」!…はダメか。
私:ダメ(笑)。非常口で寝泊まりしないでしょ。出入り口は“出口”として整えて、普段は居心地のいい“居間”(株・債券)で暮らすのが基本。
投資家としての視点:金は“メンタルの分散”にも効く
ポートフォリオに金が少しあると、ニュースの“悪い話”に過剰反応しにくい。価格面のヘッジだけでなく、意思決定の安定剤になる。若い投資家ほど、将来の複利を毀損する“狼狽売り”が一番の敵。金はそこに効く。
- メンタル効果:リスクイベント時の含み損ストレスを緩和
- 行動効果:下落局面でも年次ルール通りに株を買い増ししやすくなる
- 学習効果:相関の変化に気づける(「株と債券が同時に弱い日が増えた?」など)
リスク・注意点(超大事!)
- コスト:現物スプレッド、ETFの信託報酬、保管料。
- 保管:盗難・紛失・相続の実務。
- 相関の“気まぐれ”:万能ヘッジではない。効かない局面は必ずある。
- 過信:金が上がる理由の多くは、他資産の“困りごと”。つまり、上がって嬉しい状況じゃないことが多い。
マネサバくん:最後に合言葉、教えて。
私:OK。「金は“守り”の非常口。持ちすぎない、忘れない、年に一度は点検」。これでいこう。
金投資のまとめ
- 金は「保険」。リターン狙いの主力ではなく、0.5〜9%の範囲で役割を与えるのが現実的。
- インフレの質変化、中央銀行の独立性リスク、ドル覇権の摩耗など、“悪いことセット”に対する分散先として効く。
- 20〜30代は小さく始め、再調整ルールで“持ちっぱなし”を避ける。
- 生活防衛資金が最優先。金の積立は“その次”。
なお、本記事の内容は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。
【出典】
・タイトル:金を(いくらか)保有すべき理由
・URL:https://jp.wsj.com/articles/why-you-should-own-some-gold-381a82ff
・媒体名:ウオールストリートジャーナル
・掲載日:2025年9月18日