マネサバおじさん      

マネサバおじさん

マネー・サバイバル

—知識を武器に、未来を変える—

2025年10月5日
マネサバくん困った

日本版トラスショックを考える

高市新総裁誕生、市場はどう動く?

自民党総裁選が終わり、高市氏が新たな総裁に選ばれました。
海外では早くも「日本版トランプ」と呼ばれ、政治の転換点を象徴する出来事として注目されています。

もっとも、今の自民党は単独過半数ではなく、連立や野党の動き次第では政局も不安定。
それでも、最終的には総理大臣に就任する可能性が高いと見られています。

問題はその先――。
高市氏が掲げているのは、積極財政+減税路線です。
市場はそれをどう受け止めるのでしょうか?

マネサバくん:おじさん、「積極財政」って言葉、聞こえはいいけど…結局お金はどこから出るの?
:いい質問だね。結論から言うと、ほとんどは国債。つまり“借金”で賄うことになる。だから市場はその借金を誰が引き受けるかを気にしてるんだよ。


財政拡大はなぜリスクになるのか?

高市新総裁の政策は、簡単に言えば「減税して、公共事業を増やす」。
景気刺激には一見効果的ですが、問題は日本の財政余力です。

日本の債務残高は、GDP比で260%超。世界で最も高い水準です。
それでも金利が低く保たれているのは、日銀が国債を大量に買っているから。

ところが――
もし今後「積極財政+日銀への政治介入」が強まれば、
海外投資家は「日本の財政運営は危うい」と判断し、円売り・国債売りに動く可能性があります。

これがいわゆる「日本版トラスショック」の構図です。


トラスショックとは何だったのか?

ここで一度、「トラスショック」本家の英国で何が起こったのかを振り返ってみましょう。

2022年、イギリスのトラス政権は減税と大規模財政出動を同時に打ち出しました。
しかし、財源を明確に示さなかったため、債券市場がパニックに。

わずか数週間で政権は崩壊しました。

つまり、**「財源なき減税」+「金利上昇」+「市場の不信感」**が組み合わさると、
通貨も株も国債も同時に崩れる――これがトラスショックの本質です。


日本版トラスショックのシナリオ

もし日本で同じ構図が起きるとしたら、こんな流れになります。

  1. 政府が大規模な減税と公共投資を打ち出す
  2. 市場が「国債発行が増える」と予想し、国債を売る
  3. 国債利回りが上昇(日銀が買い支えきれない。そもそも日銀は現在も国債買い入れを減らしている)
  4. 金利上昇が円安を誘発し、物価が再上昇
  5. インフレ懸念が強まり、投資家が日本離れ

結果、株価も通貨も同時に揺らぐ――。
これが**「日本版トラスショック」**と呼ばれるリスクの姿です。


植田総裁への圧力、そして市場の反応

高市氏はかねてより「金融政策の責任は政府にある」と発言しています。
これは日銀の独立性を脅かすとも取れる発言で、市場が警戒するポイントです。

もし「日銀総裁の交代」や「さらなる国債購入拡大」といった話が出れば、
短期的には円安・株高になるかもしれません。

しかし、中長期的には「日本は財政と金融を同時に失う国」と見られ、
国債市場の信認が崩れるリスクが出てきます。

マネサバくん:おじさん、植田総裁って「利上げする」と言っていてもなかなか利上げしないけど、今度は政府が「利上げするな」って言ってくるかもしれないね。
:そうだね。インフレ対策で本当は利上げをしたい日銀と、さらに財政を拡張したい政府。両者が金融緩和で同じ方向を向けば、短期的には景気が上がるかもしれない。でも、やりすぎると通貨の信頼を失う。まさに紙一重だ。


債務を膨らませる構造的問題

なぜ日本はここまで借金が増えたのか?
背景には、人口減少と経済成長率の鈍化があります。

税収が増えない中で、社会保障費や防衛費が膨らみ続け、借金が増え始めました。
さらに国の借金で有る国債を日銀が買い入れるという、市場経済では絶対にやってはいけない財政ファイナンスを黒田日銀総裁が始めてしまいました。
本来財政赤字が増えると、国債の価格が下がり、利回りが上がります。
これにより、国の借金の金利が上がるので、自然に財政赤字に歯止めが掛るはずが、財政ファイナンスにより金利が極端に低く抑えられて、国の金利負担がほぼ無くなり結果として「借金で予算を組む」のが常態化しました。

これを「もっと積極財政で!」と言い始めると、
投資家は「この国は借金返済の意思がない」と受け取る危険があります。

財政拡張は悪ではありません。
ただし、**将来の回収計画(経済成長戦略)**とセットでなければ意味がありません。


投資家はどう見るべきか?

「日本版トラスショック」は、
単なる政治イベントではなく、投資家心理の警報でもあります。

今後、次の3つの指標に注目しましょう。

  1. 長期金利(10年国債利回り)
    → 急上昇すれば市場が財政不安を織り込み始めたサイン。
  2. 為替(ドル円)
    → 円安が進みすぎると、物価上昇を通じて実質所得を圧迫。
  3. 日銀の国債買入額
    → 日銀の国債保有率はすでに5割を超えています。
    現在も国債の買い入れは減額しているだけで、保有比率は増えています。この減額を撤回しただけで、市場の信頼を失う可能性が有ります。

マネサバくん:おじさん、つまり投資家は「金利・為替・日銀」の3つを見ておけばいいってこと?
:その通り。政治ニュースより、この3つの数字のほうが市場の本音を教えてくれる。トラスショックの教訓は「市場を軽視した政治は続かない」ってことだね。


まとめ:政治と市場の距離を測る

高市政権の政策がどこまで現実的に進むかはまだ未知数です。
ただ、もし積極財政が加速し、金融政策にまで政府が介入するようなら、
市場は間違いなく反応します。

短期的には株が上がっても、長期的には通貨価値の下落というツケを払うことになる。
それが「日本版トラスショック」の最大のリスクです。


終わりに:投資教育としての教訓

投資の世界では「政策より市場を見る」ことが何より大切です。
政治家の言葉がどうあれ、資金を動かすのは投資家。

マネサバくん:おじさん、なんか怖い話だったけど、勉強になったよ。
:怖さを知ることも投資教育の一部だよ。恐怖を避けるのではなく、理解して対応すること。
マネサバくん:なるほど、リスクを“敵”じゃなく“先生”として見るんだね。
:その通り。ショックはいつか来る。でも備えておけば、学びに変えられるんだ。